
研究の目的
高齢化が進行し疲弊する山村が、今、森林資源の過少利用時代を迎えている。北上山地の山村が、これまでどのように森林資源を改変して活用し、野生動物を資源としてどのように暮らしに取り入れ、被害の防除のための緩衝帯を形成していたかなど、山村の伝統的な民俗知識、生態知を集積して、今後さらに予想される野生動物による農業被害の増大に、いかに対処して共存を図るべきかを明らかにすることである。
研究の概要
1. 森林を人里に改変する民俗技術についてヒアリングを進め、多くに事例を収集した。例えば、毎年火入れを行って植生を草地の状態に管理する採草地は、山 菜などの自給食料の採集地でもあり、凶作時には、焼畑耕作地や、救荒食であるワラビやクズの根茎採集地ともなる重層的な利用が行われおり、山村の環境管理 の技術としての、火入れの重要性が確認された。
2. 畑、焼畑、採草地、放牧地、薪炭林など人里と、森林との境界ゾーンの管理については、ヒアリング・デー タを蓄積した。境界ゾーンにおいて、野生動物の侵入を防ぐ管理技術として除草が重視され、その労働は家族のうち高齢者によって担われる傾向があった。また 焼畑では、人が管理できない時間帯には、沢に設置したシシ脅しで獣害の防除を行った。
3. ニホンジカは、各調査地における林業労働者らからの聞き込みによって、昭和40年代までは岩手県南の五葉山が北限であったのが、現在は岩手青森県境を突破してさらに北上しつつあり、少なくとも生息北限が直線距離で100km以上北上したことが明らかになった。
4. 岩手県庁の保存文書から、調査地安家地区を含む岩手県の明治期のオオカミ猟の実態が明らかになった。明治10年代に安家のマタギが、親子のオオカミを生け捕りにしていたことや、オオカミ猟の方法を図解した絵図を発見した。またその他の野生動物の狩猟方法についても、記述があり、分析を進めている。
5. ニホンシカの皮を中心とした商品化について、「岩手県管轄地誌」などから、多くの情報が収集されている。また、明治期の岩手県の公文書に記録のある、ニホンオオカミに似たという「カセキ」という動物について情報を収集中である。
6. 2に関係して、かつての山村では多くの家でイヌが放し飼いで飼われ、これが畑への獣害を防いできた側面があった。そこで当時のイヌ飼養と効果、その変容を復元しつつ、現在の行われているイヌの獣害防除への応用形態であるモンキードッグについて、下北半島などで調査を進めている。